SPECIAL INTERVIEW
ふたりのクリエイターが語る、
「早起きしたくなる部屋」が、
生まれた理由。
松本 龍彦アートディレクター
古谷 俊一建築家
松本 龍彦アートディレクター
古谷 俊一建築家
『AM6』は、一般的な規格住宅や、
リノベーションプランとは大きく異なる特徴がある。
それは、建築とは異なる分野のクリエイターのアイデアから出発していることだ。
その“起点”となるコンセプトを生み出したのは、
アートディレクターの松本龍彦さん。
まずは彼の話を聞いてみよう。
松本 「クリエイターが住みたくなるライフスタイルプランを考えてほしい」。そんな依頼が全てのはじまりでした。僕自身、「ライフスタイルを考える」という方向に強い関心があって、「僕らの視点だからこそできるプランとは何か?」と、色々なアイデアを出し合うところからプロジェクトがスタートしました。
とは言え、松本さんは建築ではなく、広告やWebのデザイン、アートディレクションが専門分野。そんな彼がどんなアプローチで空間づくりに挑んだのだろうか。
松本 建築的な部分よりも、まず、「新しい価値観」をコンセプトにできないかなと考えはじめました。そこで辿り着いたのが「早起きしたくなる部屋」。僕らクリエイターは、仕事柄、どうしても夜型になりがちなんです。でも、年齢やキャリアを重ねていく中で、クリエイターにこそ、太陽とともに生活するような朝型ライフサイクルが必要なんじゃないかと感じるようになった。それが実現できる空間をイメージしたら、何より自分がほしいと思えたんですよね。
そんな松本さんの想いから生まれたコンセプトの種は、世の中のニーズやトレンドともリンクしているものだった。
松本 昨今のコーヒー、カフェブームもあって、朝6時くらいからやっているお店も増えていますよね。これって早起きしている人が増えているからなんですよ。「早起きしている人は時間の使い方が上手い」「朝の方が仕事の効率も上がる」。そんなメリットや魅力に気づいた、感度の高いクリエイターやビジネスマンたちが朝型のライフスタイルにシフトしはじめている。こうしたファクトから「早起きしたくなる部屋」を軸にコンセプトメイクを進めていきました。シンプルに「早朝」をイメージさせる『AM6』という名前も、その中で自然に生まれてきたんですよね。
こうして、プロジェクトはいよいよ次のフェーズへと進むことになる。実際の空間デザインへと落とし込むために協力を仰いだのが、『古谷デザイン建築設計事務所』の古谷俊一さんだった。
古谷 まず、『Dolive 』が提案している「ハウススタイルの仕組みを変えよう」「既存住宅の活用をもっと身近で簡単なものにしよう」という姿勢に強く共感したんですよ。それに、「住宅」という分野に「クリエイター」という人種を結びつけるコンセプトに新しさを感じたんですよね。
と、『 Dolive 』への印象を語る古谷さん。「早起きしたくなる部屋」というコンセプトについてはどんなことを感じたのだろうか。
古谷 そうですね。実は「早起き」「朝型生活」については、ここ数年、個人的にもふつふつときていたキーワードだったので、「やっぱりそうなるよね」という感覚がありましたね。
こうして最初のイメージを共有しあった松本さん、古谷さんは、タッグを組んでプロジェクトを進めて行くことになった。
アートディレクター 松本 龍彦
松本 コラボさせていただくお相手が古谷さんに決まってから、サイトを拝見したりして、期待感とイメージを膨らませていました。
古谷 松本さんは「バランス感覚がある人だな」っていうのが最初の印象だったと思います。
松本 最初はお互いの共通項を探るような感じで、写真集なんかを見ながら好きな建築の話をしたりしましたね。
古谷 デザイナーさんって、個性と価値観をしっかり持って、悪く言えば閉じているというか、頑固な人が多いイメージがあったんですけど、松本さんはデザインの先にある使う人やシーンを見据える客観性や柔軟性がある、今の時代にあったデザイナーさんだなと。それって建築の世界でも同じで、昔はユーザーではなくて、建築家の先生が設計したものが絶対だったけど、今は生活やソフトに根ざしてつくる方向にシフトしている。その辺りの感覚が合うから、いっしょにやったら面白いものができる。という予感がありました。
建築家 古谷 俊一
松本さんと古谷さんのコラボレーションは徐々に加速し、具体性を帯びていった。
松本 この最初のセッションのような時間の中で、僕が、過去に泊まったことがあるロッジの話をしていたんですよね。「ベランダとかウッドデッキがあって、外と中の境界が曖昧な感じの空間が好きだ」という話題になって。
古谷 建築的には「中間領域」と呼ばれる空間ですね。日本の伝統的な家屋に見られる縁側などとも通じます。僕ももともとそういう空間が好きだったので、早速、そのアイデアを活かして、「アウトドアリビング」という方向性でデザインをつくりました。
そのとき、最初に描かれたのがこのスケッチ。当初はアジアンテイストがやや強めに表現されていたようだ。
松本 最初にスケッチを見たときの驚きと高揚感は忘れられませんね。僕自身、建築家の方と何かをかたちにするという経験がはじめてだったので。
古谷 このスケッチを受けて、松本さんたちから出てきたのが「カフェ」というキーワードでしたね。
松本 はい。「自宅にカフェ」というと、よくあるライフスタイル提案みたいに聞こえますが、ここでいう「カフェ」は、ちょっと意味が違うんです。
古谷 ええ。僕も「カフェ」という言葉の意味は、そっちじゃないと思いました。
松本 アメリカの社会学者が提唱して、世界的な拡がりを見せている「サード・プレイス」という考え方にも通じるんですが、「カフェ」って、現代のライフスタイルを象徴する空間だと思うんですよね。例えばノートパソコンやタブレットを開いてカフェにいる人って、仕事をしているのか、遊んでいるのか、友だちとメッセージをやりとりしているのか、買い物をしているのか・・・・・・見ただけでは区別が付かない。実際、これらの行動って、クリエイターにとっては明確な境目がなくなっているし、全てがつながっていたりします。だから、こうした行動を丸ごと内包できる「カフェ」のような場所こそ、クリエイターが住む部屋には必要なんじゃないかなって。
古谷 造作ではなくて、感覚なんですよね。だから、「ここをカフェらしく仕上げなければ」みたいなことではなくて、植物が心地よく視界に入ったり、質感のいい家具に囲まれたり・・・・・・というライフスタイルの容れ物をつくって、そこに共感してくれる人に届くようなハウススタイルパッケージに仕上げようと考えたんです。
こうしてふたりのイメージが噛み合い、「早起きしたくなる部屋」を構成する「アウトドアリビング」や「カフェ」といった重要なキーワードが決まっていった。
AM6:GREEN
AM6:BROWN
こうした流れの中で商品として完成したラインナップが、植物との相性を意識した『AM6:GREEN』と、スタイリッシュなカフェの雰囲気をイメージした『AM6:BROWN』だ。
古谷 『AM6:GREEN』では明るさや、空気のよどみを感じさせない空間を意識して、リビングに扉を付けずに抜けをよくしています。その方が植物たちも美しく見えますからね。あと、実際、植物と付き合っていくことを考慮して、床にはコルクタイルを使用して、水や土をこぼしてしまってもお手入れしやすいよう配慮しています。
松本 『AM6:BROWN』では『AM6:GREEN』の特徴や心地よさを踏襲しつつも、ビジュアル的に「カフェ」の雰囲気に寄せたイメージですね。ヴィンテージ感のあるスタイルで、より男性的な雰囲気を演出しています。
古谷 一応、ラインナップとして2つの名前を付けましたが、イメージした「早起きしたくなる部屋」という心地よさは同じなので、「GREENじゃないと植物が映えない」だとか「BROWNじゃないとカフェ感が楽しめない」ということはありません。選ぶときはフィーリングで決めていただければいいと思います。
最後に、『AM6』をつくったふたりに、実際住むならどう楽しみたいか。住む人にはどんなライフスタイルを送ってほしいかなどを聞いてみた。
松本 そうですねえ。お気に入りのパン屋に行って、自分でゆっくり豆挽いて、欲しいなって思っているアイテムをインターネットで眺めながら……とか、色々イメージはしたんですけど……何もせずまどろみたい。ただそこでゆっくりと朝を過ごしたいと思っています。
古谷 いいですね。僕もそうしたいなあ。あと、植物たちとの暮らしを楽しみたいですね。朝、水をやったとき、濡れた葉っぱに光が差してキラキラする感じとか。実は葉っぱ一枚一枚にも表情があるんですよ。例えば水が足りないときは「ちょっと喉渇いたんですけど・・・・・・」という顔をするし、時間とともに日当たりが変わると「この場所好きじゃないよー」という顔になるヤツもいる。そんな感じで、朝、ぼーっとしながらも、鉢植の位置を変えてやったりする感じがいいなあ。
松本 植物って、そんなに表情豊かなんですね。時間帯によって場所を変えたりするんだ。
古谷 そうですね。時間帯によって変えてあげるのがベスト。でも、実際、毎日は大変だと思いますけど、季節毎に位置を変えてあげるだけでもだいぶ違いますよ。太陽光の入り方が変わってくるから、植物たちのコンディションや表情に違いが出ます。でも、難しく考えないで、好きなものを取り入れながら、色々とトライ&エラーしていく方が楽しいですよ。別に鉢植である必要もないですしね。花器に枝を生けるだけでもいい。
松本 ああ、朝のイメージ、湧きますね。「早起き」というと「規則正しい生活」というか、ちょっと硬いイメージを抱く人もいるかも知れませんが、義務化しない方がいいと思うんです。例えば美術館に行ったり、お気に入りのレストランに行くような感覚で、楽しみのひとつに加えてほしい。「今度の土曜日は早起きしてみようか」って、それくらいからはじめる感じ。
古谷 『AM6』のプロジェクトを通じて改めて思ったのは、住宅って、もっと好みとか感性でつくるべきだということでした。多くの人は、自動車も服も時計も自分のセンスで選ぶのに、家だけはその感覚と違う部分で選ばれている・・・・・・と、以前から感じていて。大きな買い物であるが故に「好き・嫌い」だけで選べなくなるんですよね。でも、「好き・嫌い」をもっと前面に出して考えた方が楽しい。建築家に直接オーダーするような家でなくても、それができるのが『AM6』なんですよ。決められたデザインコンセプトがあるから、住む人が参加しやすいんです。そういう意味でも、つくる段階から『AM6』なライフスタイルを楽しんでいただけたらと思います。
広告やアパレルを中心にプロモーション・ブランディングを手掛ける。主な仕事にEMBLEM HOSTEL,1LDK,shu uemuraなど。アジア太平洋広告祭、ニューヨークフェスティバル等受賞。
https://www.wab.cc/
IDÉE、都市デザインシステムを経て、2009年古谷デザイン建築設計事務所を設立。東京建築賞優秀賞、グッドデザイン賞、住まいのデザインアワード入賞/建築士連合会賞奨励賞、木質建築空間デザインコンテスト一般建築部門賞他多数受賞。
http://www.furuyadesign.com/